ツール・ド・フランス

7月1日から、世界最高峰の自転車レース、「ツール・ド・フランス」が開幕しました。約1ヶ月間にわたり、世界を股にかける一流サイクリストたちがフランスの大自然・山岳・都市の中を駆け抜け、その技術・体力・センスを競い合います。なんといっても長丁場。速く走るだけではない、長期間にわたるレースを如何に個人が、そしてチームが戦うかという高度な戦略性が問われるスポーツの祭典です。
今日は、昨年までのツールで7連覇という偉業を達成し昨シーズン限りで現役を引退した選手、ランス・アームストロングが書いた自伝的書籍を紹介します。

ただマイヨ・ジョーヌのためでなく

ただマイヨ・ジョーヌのためでなく

マイヨ・ジョーヌとは、ツール・ド・フランスで、それまでの全ステージにおける総タイムが最も短かった(つまり最も速く走った)選手のみが着用を許される黄色いジャージのこと。サイクリストにとって最高の勲章です。

著者であるアームストロングは、自転車の世界選手権で優勝した後、25歳の若さで睾丸癌(それも末期)であることを宣告されます。生存確率はわずかに3%(当時、医師からは20%と聞かされていたのだそうです)という難病中の難病。
すさまじい苦痛、衰えゆく肉体。世界最高のアスリートという誉れを得た人間にとって、その精神的苦痛は計り知れないものがあったはずです。
しかし、睾丸から肺、そして脳へと転移した癌を摘出し、化学療法に耐え、彼は生還します。そして、再びトレーニングを積んだ上で臨んだツール・ド・フランス。誰もが「自転車選手」としてではなく、「癌からの生還者」として同情の眼差しを送る存在だった彼が、何と、癌に冒される前には成し得なかった総合優勝を達成。マイヨ・ジョーヌを手にするのです。
そして、その偉業はそこでは終わらない。彼は、毎年ツールに勝ち続け、遂に7連覇という前人未到の記録を打ち立てる。現役を退くまで、トップを走り続けたのでした。
彼は言います。癌が自分の人生を変えた、と。周囲の人たちの温かさ、自転車に乗る喜び、それらに気づかせてくれたのは他でもない、癌という病だった、と。
この一言は、本当に心に突き刺さります。「断言していい。癌は僕の人生に起こった最良のことだ。」