[随想}  人民元改革と米国雇用

中国13億国民を率いる国家主席胡錦濤氏の訪米に伴い「人民元改革」が盛んに話題に上っています。ことに米国議会においては、中国に対する敵対的議論が熱気を帯びるばかり。
中国からの安価な工業製品流入によってアメリカ国民の雇用が奪われている、という危機感がそうした敵対的議論の背景にはあるわけですが、「もう少し俯瞰的かつ長期的な視野に立てないか」というのが僕の感想です。

①俯瞰的な視野
雇用という側面にこだわらず、広く経済社会全体を見てみると・・・という視野に立ったとき、そこには何が見えるでしょうか。中国からの安価な工業製品流入は、一方では確かにアメリカ製造業の競争力を削ぎ、工業労働従事者の雇用を奪っています。ただし忘れてはいけないのがもう一方の側面。競争力のないアメリカ製造業が作った高い製品を買わされていた消費者(企業も含む)は、中国からの安価な製品によってどれだけのコストセーブができているのか。
トータルで考えた場合、間違いなく「失われた雇用<消費者のコストセーブ」という式になっているはずです。雇用喪失には悲壮感が付きまとうが故にクローズアップされがちですが、消費者の広範な利益という視点が欠落するのは危険です。


②長期的な視野
人民元切り上げに成功すれば、アメリカの低付加価値製造業も一時的には一息つけることでしょう。しかし、それはあくまでも「一時的」なもの。いずれそうした低付加価値産業はコストの高いアメリカ国内では立ち行かなくなってしまいます。
短期的な雇用喪失に神経を尖らせるだけでなく、次を見据えた政策ビジョンを考えるとき、もう少し違った見方ができないでしょうか。中国から安価な部品が手に入るなら、それを組み込んだコストパフォーマンスの高い高付加価値製造業に力点を移すといった対応です。

余り細かいところまで書くことはできませんが、狭く短期的な視点でグローバル経済の動向を捉えるのは、チグハグで危なっかしい気がしてなりません。