人間らしい経済学
会社の行き帰りの電車の中で、こんな新書を読んでいます。
- 作者: 友野典男
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2006/05/17
- メディア: 新書
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行動経済学という学問分野の基礎をわかりやすく説明することを目的とした本ですが、この行動経済学という学問、なかなか耳慣れないけれど面白い。従来の経済学が、人間を「経済人」と呼ばれる究極の合理的生物として規定して組み立てられているのに対して、行動経済学は、ついつい目先の欲求に目がくらんでしまうような、より現実に近い人間像を前提として構築されているのです。
従来の経済学が規定する「経済人」とは、こんな人です。
買い物に行ったら、すべての商品について知識があり、ありとあらゆる商品の組み合わせを考慮に入れて、もしそれらを消費したら得られる効用をすばやく計算し、効用を最大にするような商品の組み合わせを知ることができる
(中略)また経済人は、コーヒー1杯と紅茶1杯ではどちらが好きであるといつでもはっきり言うことができ、その好みは時間や状況によって変化してはならない。
(中略)さらに意志は固く、禁煙やダイエットに失敗するなんてことはありえない。その上、体に悪いとわかっているから若い頃からタバコは吸わず、ダイエットが必要となるような脂肪分や糖分の過剰摂取はしないはずだから、そもそも経済人は、禁煙・禁酒・ダイエットという言葉とは無縁である
こんな「何でも知っていてすぐに判断ができ、誰よりも自分の利得を最大化するように行動する」とってもクレバーだけれど冷たい利己主義者こそが、従来の経済学の中に登場する「人間」だったのです。
一方、行動経済学では、人間の合理性は完全ではなくあくまで限定的で、間違いもすれば無知でもあり、感情や思い込みに支配されやすい存在であると規定し、そこから科学的に経済動向の説明や政策立案などに取り組んでいきます。
文中では、大学のマクロ経済学の一番最初に習う「無差別曲線」があっさり否定されてしまう場面などもあり、知的エキサイトメントに満ちた一冊。
こうした書物を読んでつくづく思うのは、学問もまた常に仮説検証のプロセスの中で進化していくのだということ。中高はもちろん大学で教わる内容もまた、あくまでも一つの仮説・検証の一端に過ぎない。それに対して別の仮説が提起されることだって当然ありうるし、従来の定説があっさり論破されてしまうことだって起こりうる。
偏見や思い込みを捨てて、自分の頭で考えること。仮説検証プロセスをしっかりと身につけること。これが高等教育の基礎なんですよね、やっぱり。