「この世界の片隅に」戦争を生きた人たちの意外な肉声

先日東京に出張した夜、ホテルの部屋で一人「この世界の片隅に」を見ました。ありがたいことにNetflixで公開されていたもの。

主人公「すず」さんの"ほんわか"とした人柄、物事の捉え方が、背景として描かれる戦時下という過酷な状況・世相との対比の中で清涼感をもっていて、温かな気持ちにさせられる映画。と同時に、そんな過酷さを淡々と乗り越えていく彼女の姿に心打たれる映画でもありました。

この世界の片隅に
 

 この映画を見ていて思い出したのが、今年100歳になる祖父が話してくれた戦争の頃の体験談でした。

若い頃に営業の仕事で日本中に出張して色々な商談をした、と楽しそうに語る祖父に、「それっていつ頃の話?」と聞くと、戦時下真っ只中の昭和10年代後半。当時まだ20歳前後だった祖父によれば、

年上の先輩社員がみんな兵隊に取られてしまったので、出張できる奴が他にいない。当時は若くて経験もなかったが、他に誰も行けないのだから仕方がない、と一人で日本全国を回って営業をしていた。

地方の思わぬ有力者や企業経営者と会ってひょんなことから気に入られて美味いものをご馳走になったり、大きな商談がまとまったりと、楽しかった。

戦争という厳しい状況の下にあっても、その状況をどう捉えるかは人それぞれ。「すず」さんはそのほんわかとした性格で柔軟に状況を受け入れて日々を淡々と過ごしていたし、私の祖父は思いがけず巡ってきた仕事での抜擢と機会を楽しんでいた。

もちろんそこには語られていない辛い経験や挫けそうになる心の中の戦いがあったはずです。戦争などないに越したことはない。それでも、そこに現代の自分たちと同じように日常を生き、仕事をし、楽しさや幸福を感じ取っていた人たちがいた。それを知ることができて、少しだけ救われた思いがしました。

「すず」さんは兄を、私の祖父も複数の兄弟を戦争で失くしています。日常の中に「死」が当たり前にあった時代。そんな時代のことをポジティブに捉えることは難しいですが、生身の人間の口からその頃の話を聞くことができるのもあとわずかの年数。祖父と、またお酒を飲みたいと思います。