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事件は現場で起きているが、それを正しく理解するには全体としてのストーリーが必要

「事件は現場で起きている」は、ビジネスの現場でもよくささやかれる言葉です。主に現場サイドの意見として、現場の最前線の状況を知らない組織の上層部を批判する際などに用いられることが多い。テレビドラマの中で使われたセリフが、これほどビジネスにまで浸透するというのも珍しいことです。それだけ、組織の本質を突いているということでしょう。

でも、そうしたキャッチフレーズを使う際は注意が必要です。使っている本人が、いつしかそのキャッチフレーズの意味するところを「当然のこと」として受け入れてしまうことになりがちだからです。今回の例で言えば、 「事件は現場で起きている。だから、現場の人間のほうが適切な判断ができる」と、テレビドラマの中の状況を現実に置き換えて、自分の価値判断を決めてしまう。時にはドラマの中の状況が真実であることもありますが、そうではない場合もあることを忘れてしまう。それがキャッチフレーズの危うさです。

ビジネスの現場でよく目にするのは、「現場には確かに情報があるけれど、それを組織の目的達成に向けてうまく活用できていない」という状況です。お客さんがもらしたちょっとした情報、それをしっかりと記録し他のお客さんからの情報と合わせて、 「要するにどういうことなのか? 」を考える。あるいは、あらかじめ立てた仮説ストーリーの中で、その情報がどんな意味を持つのかを考える。さらに、その仮説ストーリーを検証するために、新たな情報を取りに行く。そうした活動ができていない。

現場に存在する情報のひとつひとつは、 点にしか過ぎない。そうした点をつなぎ合わせて一本の線にしていくためには、ストーリーが必要です。現場にある情報にストーリーというスパイスを加えることで、それらは瞬く間に光を放ち始め、大きな意味を持つものになっていく。そんな点から線への変化は、現場で活動する一人一人の心を躍動感で満たしてくれる刺激的な体験です。

そうしたストーリーを考えるのが経営者の仕事なのか現場の仕事なのか、よくわかりません。ただ間違いなくいえるのは、現場から遠いところにいては、ストーリーは生まれないだろうということ。また同時に、現場に埋没した日々を送っていても、やはりストーリーは生まれないだろうということ。僕自身の今の仕事を振り返って考えても、現場からの適度な距離感というのが最も重要で、最も難しいと感じます。