圧倒的な行動力が組織を変える

久しぶりに心が震える本でした。先日参加したSalesforce.comのセミナーで前半部分の講師として登壇した営業改革コンサルタント・横山氏の近著です。本のタイトルからすると、自分からはまず手に取らないタイプに見えるこの本、しかしよかった。

絶対達成する部下の育て方――稼ぐチームに一気に変わる新手法「予材管理」

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営業改革というテーマは目新しいものではなく、僕自身も過去の仕事の中でそれに近い内容を顧客に提案したり、研修を設計したことがある領域。この領域を大きく分けると、トップセールス経験者が自身のノウハウを開陳するというタイプの「トップ営業マンの秘密教えます型」と、マーケティングや組織行動論の理論に根差したロジカルな営業マネジメントで成果を狙っていく「戦略的営業型」の二つに分かれるもことが多い。(僕が設計していたのは後者のタイプ)
横山氏の考える改革のあり方は、そのどちらでもない。強いて言えば、営業改革という分野ですらないというのが個人的な感想です。営業ではなく、営業を起点にして組織・企業そのものを変えていくというアプローチだと感じました。キーワードはいたってシンプルで、「圧倒的な行動量」。営業でいえば、とにかく顧客とコンタクトをする回数を増やすというもの。「おいおい、結局ありきたりの根性論じゃないか」とここで止まってはいけない。
PDCAのマネジメントサイクルを素早く回しスピーディーに戦略を軌道修正していく者が勝つという黄金律がありあす。僕もミスミという会社で仕事をしていた頃、とにかくこの「ぐるぐる回し」を速く実行するということを叩き込まれました。問題はP・D・C・Aのどこに力点を置くか。
正直に言えば、僕は「P」に力点を置いた考え方にたった行動をしてきました。ミスミが非常に戦略プランニングを重視する風土であったことが影響していますが、そのうえでビジネススクールで学ぶといった経験を蓄積したため、さらにプランニング重視が磨かれた感じがします。優れたプランニングなくしてDo(実行)を行っても、貴重なリソースを無駄に使うだけに終わる、だからプランの切れ味を増していくことが第一なのだ、と。
もちろん、P(プランニング)が優れていれば後のD(実行)は力を抜いてもいいというわけではありません。ミスミではプランの切れ味と同時に「愚直な実行」を重視していました。ただ、この本を読み終えて今感じているのは、Do(実行)が無駄に終わることを恐れていたり、Do(実行)のボリュームを徹底的に確保することのできる組織力なくして、優れたプランも糞もないんじゃないかということ。言い方を変えれば、Do(実行)のボリュームとそれを支える組織の力がないままにプランニングの切れ味を求めても、結局のところそれは意味がないのではないか、と。
まず、仮に優れたプランができた場合であっても、Do(実行)を圧倒的なパワーで進めていく組織力が育っていなければ意味がない。また、プランを作成していくに際して不可欠な「現場の気づき」「現場感」は行動する中でしか生まれてこないがゆえに、行動なきプランニングには意味がない。2つの「意味がない」に行き当たる。
本書が僕に与えた示唆は、単に「行動がすべて」ということではありません。優れたプランニングが重要であることは変わりがない。ただし、優れたプランの完成を目指す前にすることがある、ということ。それはすなわち、圧倒的な行動量を生み出すパワーを組織に実装すること、そして行動の中から得られた現場の気づき・叡智をプランニングに反映させる風土と仕組みを実装すること。いわば、PDCAではなく、O(組織のパワー)があり、そこからD→C→Aのサイクルをがんがん回す。そして地に足の着いたPを見出していく。O ⇒ D→C→Aサイクル ⇒ P ⇒ D→C→Aという流れです。
本書では、最初のステップにあたるO(組織のパワー)の生み出し方について記されています。営業マネジャーというよりは、むしろ経営者が手に取ってほしい本だと思います。