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クオンタム・ファミリーズ

今年の書籍紹介7冊目は小説です。時折「小説が読みたい」と無性に感じる時期があるのですが、今年の前半にやってきたそんな時期にゼミの友人から紹介してもらった1冊。その時の僕のリクエストは「話の意味はよくわからないけれど、何となくふと腹に落ちるような、そんな小説が読みたい」というもの。そんな曖昧な質問に答えてくれた彼女に感謝です。

クォンタム・ファミリーズ

クォンタム・ファミリーズ

インターネット上にあらゆる情報が集積されていく世の中の行きつく先を、近未来小説という形で示唆的に表現している作品です。ストーリー展開はスリリングで、SF小説のように読める側面がある一方、そこに描かれている世界の妙に生々しい現実感とどこか意味不明な部分とがあいまって、まさに冒頭の僕のリクエストにぴったりでした。
ネット検索がロボット化されているのは現在でもそうですが、本書に描かれている世界では、ネット上にアップされる情報そのものもロボットによって生成される時代が描かれています。つまり、検索ロボットに対応するため、Webサイト制作もロボット化されているわけです。結果としてネット上では人間の手では不可能な無限に近いスピードで情報が増殖。やがてその真贋(真実か否か)がわからなくなってしまう。
こうして僕が書いているブログの記事というのは100%僕の手によって書かれているわけで、ある意味では分身なわけですが、クオンタム・ファミリーズの世界ではそれが必ずしも本人の手によって書かれたものかどうかはわからない。ロボットが生成した記事と本人が記述した記事とが並立しており、どちらを信じてよいか誰にもわからない。そんな環境下で不思議なストーリーが展開されていくわけです。
マーケティングツールとしての「商業的なWeb利用」は、以前は個人のそれとは大きく線引きがされていたと思います。個人はブログなどで自己を表現するけれど、企業活動とのリンクはそれほど強くなかった。しかし、最近はSNSも含めて個人がネット上に展開しているコンテンツに対して企業からのアプローチが増えていたり、また企業があたかも個人であるかのようにネット上に人間味のある記事を放出したり(もちろんマーケティング的な意図をもって)したりしています。
現時点ではどちらも「人間」の手によって行われており、どこかしら人間的なもの。しかし、そこにロボット的な自動化の世界がやってくるのは、そう遠くない未来である気がします。実際、SEO対策の効果を高めるために、ロボットが作ったかのような不自然なページからリンクを張ったりという行動も見られるようになっています。
2010年はFacebookTwitterと、僕自身も社会においても、ネットと個人・企業の関わり方が大きく変化した年だったと思います。その先にある未来の姿について、ポジティブ・ネガティブ双方から眺めて考えてみるいい機会なのかもしれませんね。
Kazuteru Kodera