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就業時間の設定は無意味かつ有害である の議論について

先日ここで紹介したダニエル・ピンク著「モチベーション3.0」の中では、人間のモチベーションを高めて創造的な仕事をするための要素の一つとして「自律(Autonomy)」があるとされています。仕事をする時間や場所、何を課題とするか、そしてそれを解決する方法。それらを社員の自律性に委ね社員自らに決定させることで、より高い創造性・パフォーマンスを期待できる、と。

この中で、最初の二つ、つまり仕事をする時間と場所についての制約を取り払うことについて、考えてみたいと思います。ちなみに同書の中では、フレックスタイム制(1日の一部の時間帯を勤務時間として拘束し、残りの勤務時間をいつ仕事にあてるかは社員に委ねる制度)も「見せかけの自由をおこぼれのように与えるだけ」の無意味な制度であるとする見方が紹介されていますから、ここでは「仕事をする時間の量と時間帯の設定、ひいては仕事をする場所についても、完全に社員に委ねる」という制度について考えてみましょう。
言い換えれば、どこで、いつ、どのくらいの時間で仕事をするかは完全に社員に委ねられている、という状況です。もちろん、必要に応じて会議などの「場」が設定された場合には、リアルで集まるという前提です。

そんな制度に対して考えられる反論を挙げると、以下のようになるでしょう。

1. 「そんなことをしたら社員がサボる」という「監視機能の低下」について。
2. 「チームのメンバーがいつも顔を合わせていないとチームワークが低下する」という「チームワークの低下」について。
3. 「会議などが柔軟にできず意思決定や情報共有がうまくいかない」という「コミュニケーションの低下」について。
4. OJT的な教育ができないという「社内教育の低下」について。

ここでは順番に、僕なりの「反論に対する反論」を試みてみたいと思います。
1. 監視機能の低下
これはそもそも「社員は上司が監視していないと仕事しない」という考えが前提にあります。こういう環境下で仕事をしている人も多いのが現実だと思いますが、これは一言で言ってしまえば、「監視しないと仕事をしないような仕事をさせている組織に問題がある」というこtになるでしょう。
事業の内容やミッション・ビジョンに共感する社員を採用し(採用)、彼らが熱心に取り組みたいと思う仕事を提供し(配置)、プロセスや結果について正当にフィードバックすれば(評価)、上司の監視などなくても人は仕事をするのではないでしょうか。監視しなければ仕事をしない社員ばかりの会社など、短期的にはいざ知らず長期的な競争力が出るわけがありません。

2. チームワークの低下
この反論の背景には、「人はいつも顔を合わせて一緒に仕事をしている方がチームワークが高まる」という想定があります。でも、それは本当でしょうか?チームワークが高まる瞬間はどんな時か?を考えると、どうも「いつも同じ時間・同じ場所にいること」がキーワードではない気がします。もちろんスポーツチームや劇団のように、チームで練習してパス回しや連携プレーの訓練をする必要がある仕事は別ですが、一般企業の場合そういうことはありません。それよりも、「一つの大きな仕事を終えてみんなで飲んで騒いでいる時」などのように、チームとしての目標を達成したり、その喜びを分かち合っている時にこそ、チームワークが最高潮に高まるのではと思います。
そこに至るためのプロセスをチームが一緒に進むことは大切ですが、「一緒に仕事をする」ということと「同じ場所・時間に仕事をする」ということとは同義ではありません。顔を合わせなくても、プロジェクトをチームとして進めて行くことは十分に可能です。

3. コミュニケーションの低下
これもチームワークの議論と似ていますが、「いつも同じ時間・同じ場所にいること」がコミュニケーションを促進するのでしょうか?隣あった席に座っていながら終日会話しない上司と部下、隣の部署が何をしているのか全然知らない1課と2課、なんていうシーンはいくらでも会社で見かけることですから、そうした議論が当てはまらないことは明らかです。
コミュニケーションの深化に必要なのは、効果的なコミュニケーションが図られる「場」を創出することであって、いつも顔を突き合わせていることではありません。そうした「場」が時にはオフィスであることもあるけれど、時おり集まる会議室であっても全く問題はないように思います。

4. 社内教育の低下
これは悩ましいところです。確かに先輩や上司の姿・仕事ぶりを見て後輩が育ったり、意識的に部下や後輩に仕事の進め方などをアドバイスしたりといった方法で、スキルレベルの低い社員を育成するということは十分ありえる状況です。「モチベーション3.0」の中では、一人一人のメンバーが「プロフェッショナル」である組織を想定しているようなのでこの問題は登場しませんが、恐らく多くの会社ではここが最大の問題になるでしょう。
では翻って考えてみてください。「あなたの会社で、若手や新人は職場の中で育てられているでしょうか?(意図的に集合する研修などは除く)」YESと答えた方の会社では、この社内教育の問題は「自律」制度の導入にマッタをかける動機になります。一方、Noの場合には障害になりません。
とはいえYESの会社でも、この制度の導入が全くできないわけではありません。例えば、ある企業が実施しているように「徒弟制」を設け、優秀な先輩社員の下に何人かの「徒弟」をつけて一定期間はコバンザメのように張り付かせる。その期間に、現場でしか学べない教育を実施しようという試みです。その期間は、徒弟の側は先輩社員の「自律」に付き合う必要がありますから辛いかもしれません。それでも、教育効果を考慮すれば実施する価値はあるでしょう。

僕個人はどちらかというと、というかかなり、「場所と時間」や「課題や方法」を制約されることを嫌う傾向があります。しかし、そうではない人もたくさんいるというのも事実。「みんなで顔合わせてやっていた方が元気になる」という人にとっては、「自律」も時として有害なのかもしれませんね。

Kazuteru Kodera