天守閣理論 遠くを見よ 足下も見よ

清水勝彦著「その前提が間違いです」の中で紹介されていたローソン・新浪社長の「天守閣理論」がとても印象に残りました。

組織のトップは城の天守閣にいるから、遠くまで見渡せる。地平線からゆっくりと、しかし着実に敵が我が方の城に迫ってきているのが見えるから、強烈な危機感に駆られて部下に備えを命じる。しかし一方の部下たちがいるのは城の高い塀の中。それほど遠くが見通せる場所にいるわけではないので、トップが「危機だ!」と叫んでもあまり切迫感がない。
こうした現象がもとで、「うちの会社の社員には危機感がない」というトップの嘆きが生まれる。

一方、いつの間にか敵が城内に忍び込んで、「組織間の対立」や「モラル低下」といった組織の病を発生させているような時には何が起きるか。
天守閣にいるトップは、遠くは見えていても城内のことはよく見えないから、自分の組織がどれほど弱体化しているか、士気が低下しているかということに気がつかない。
こうした現象が起こると、部下からは「トップは現場の状況がわかっていない」という嘆きが生まれる。

組織において、「トップが見ている景色」と「社員が見ている景色」は決定的に違うと言われます。しかし、必ずしもトップが見ている景色だけが正解で、社員が見ている景色は正しくないとは言えません。トップはトップに立っているが故に、見えない景色もあるということです。

厄介なのは、例えトップが自らの視野の限界を悟って「よし、自分は現場に降りて行って現状を見るぞ」と行動して(全国の営業所を回って話を聞く、工場のラインを視察する)も、1日や2日のことでは結局「お客さん扱い」されてしまい、現場の実情のカケラも汲み取ることはできないということ。トップが天守閣から降りて行っても、城の中の状況がわかるとは限らないのです。

では、どうしたらいいのでしょうか?時代劇が大好きな僕の考えは、「忍び」を活用せよ、です。信頼できる人物を何人かインフォーマルな形(正式な人事としてではなく)でトップと直接に話ができる環境を作り、彼らを現場に足しげく出向かせ、情報を集めてもらうのです。
2段階か3段階くらい下の部下(たとえば部長クラス)の中から何人か、トップが「気の置けない友人」のような存在として認めることなどが挙げられるでしょうか。忌憚なく現場の状況を伝えてくれる友人が組織内にいるというのは、心強いことです。

その前提が間違いです。 (講談社BIZ)

その前提が間違いです。 (講談社BIZ)

Kazuteru Kodera