新興国の衝撃2 我々が彼らから学ぶこと

今回のリーダーシップトレーニングに参加していたのは、先日書いた通り新興国18カ国、27人の経営リーダーたちでした。企業規模はさまざまながら、30代後半〜60代まで、バラエティに富んだ業種からの参加者たち。
今日は、そんな彼らから我々が学び取れることを一つずつ挙げていきたいと思います。
1.情熱(Passion)
ビジネスに対して、学ぶことに対して、人生に対して、彼らの持っている情熱は驚くほどに真摯で熱い。僕自身が最も感銘を受けたのはこの点でした。「真剣」という言葉が刃を想起させるのと同じように、彼らにはある種の切迫感と緊張感とが漂っていたのです。
ワークショップにおいて熱く議論する姿や尽きることなく質問を繰り出してくる姿は、実に真剣そのもの。あらゆる機会をとらえて学んでやろう、漏らさず持ち帰ろうという強固な意志を感じさせられました。一度きりの自分の人生を、生き切ってやろうという情熱。どん欲なまでの情熱が、そこにはありました。グローバル化の中で、今こそ新興国が大きく飛躍するチャンスであり、それを掴むのは自分達なのだという思いがあった気がしています。
2.使命感(Sense of mission)
ワークショップの最後に、各自の夢をシールに書いて世界地図の出身国の場所に張ってもらいました。そこに記された文言は、彼らの強い使命感を反映したものでした。「母国に豊かな経済を」、「社会に貢献するリーダーとなること」など、いずれも国家レベル、世界レベルの視野に立って書かれているのです。自分自身の幸福について書かれたシールは、一枚も見当たりません。
彼らは、中小企業の経営者であっても国家の代表、産業と経済の担い手としての意識を強くもっており、その視点から物事を考え学んでいるのです。
この使命感が、先に挙げた情熱を作り出している側面も強いのではないかと思います。
物質的に貧しい彼らの母国とそこで懸命に生きる同胞たちの姿。何とかそんな状況を打破していきたいという思いが、使命感につながっているのではないかと感じます。
3.コミュニケーション力(Communication Ability)
もう一つ驚かされたのは、彼らが非常に高い「伝える力」を持っていることです。英語力という側面はもちろんですが、それ以上に、例え下手な英語であっても相手に伝えようという並々ならぬ意欲を持っている。プレゼンテーションの魅力でいったら、中には一国の大統領でも勤まるのではないかと思う参加者もいました。
だから、彼らの言葉は熱く聞き手に語りかけられ、伝わっていきます。言葉そのものという以上に、その背後に屹立している「思い」の強さが、ぐんぐんと言葉の力を強めていくのです。
インドに代表されるように、彼らの国は人口も多く民族や宗教も多彩です。そこでは、伝える力がなくては生きていけないのでしょう。そうした環境で揉まれて生きてきた彼らのコミュニケーション力が大きく伸びたのは、自然なことかもしれません。
4.受容力(Openness)
暑い議論に耳を傾けていた時、ふと「この人たちは熱く自分の主張をするけれど、人の話を聞かないのではないか?」という疑問が湧きました。強い発信者というのは、往々にして他者の考えを受容することに長けていなかったりするものです。
ところが、そうではなかった。彼らの多くは柔軟な思考を持ち、他者の意見に耳を傾け、時に反論し時に受容しという、実にクオリティの高い相互作用を実現していたのです。
これもやはり先に書いた民族的、宗教的多様性の中で育まれたしなやかな感覚なのかもしれません。
5.内的豊かさ(Internal Wealth)

最後に一点付け加えておきたいのは、彼らの内的豊かさについてです。ある種の緊張感とともに使命感に溢れた行動・思考をする彼ら。ややもすると、緊迫感溢れた近寄りがたい人格を想像されたかもしれません。ところが、実際のところ彼らはとてもフレンドリーで、かつ人生をエンジョイし楽しんでいる人々なのです。

日本人が「過労死」したり「自殺」したりするという話を聞いたとき、彼らは一様に不思議そうでした。電車の中で見かける日本人の多くが暗い顔をして携帯ばかりをいじっている姿も奇異に感じたそうです。「なぜ日本人はこんなに豊かに暮らしていてみなUnhappyなのか?私の国では決して豊かではないが、みんなHappyに暮らしている」と。

心の中を豊かに保つのに、物質的豊かさは必ずしも必要ではない。そんな気持ちが、彼らの人懐っこい笑顔を見ているとわき上がってきます。

Kazuteru Kodera