国家が投資すべきもの 

先日まで行われていた新興国の経営リーダー向けトレーニングコースの中で、インド出身の参加者から聞いた話に驚きました。彼は大学院でMBAの学位をとっているのですが、その際にかかった費用が年間たったの数百ドルだというのです。つまり、数万円で一年間大学院に通い、プロフェッショナルとして仕事のできる学位を手にすることができる。大半は奨学金という形での援助だということでした。日本国内でMBAを取れば200万円以上、欧米に留学すれば生活費もあわせて数千万円という単位のお金がかかるのと比べると、あまりにもその差は大きい。
30人あまりのクラスの中にMBAホルダーが10人以上もいることに、またその他にも博士号を取る予定だという方いたりと、「本当に新興国出身者なのだろうか?」といぶかしく思う瞬間が何度もあったのですが、これで謎がとけた思いでした。彼らの国の多くでは、学ぶ意欲の高い優秀な学生には、ほとんど無償で非常に専門的な教育を受けるだけの奨学金が用意されているのです。
そうした環境で必死に勉強し、高い学位と専門性を手に入れた彼らは、正直われわれ日本人の中の優秀な人たちを軽く上回るくらいのスキルと高い英語力とを身につけています。
GDPで測られる一人当たりの経済規模でいったら日本の10分の1にすら満たない国。マクロレベルで日本と当該国を比べれば、相手は「途上国」であり、「援助する対象」になるのかもしれません。それでもそんな国を率いている政財界のリーダーは、日本人など足下にも及ばないくらいの高い能力と国際感覚とを身につけている人々なのです。
ひるがえって日本という国家は、その巨大な経済規模と他国がうらやむ高い税収を、何に使っているのでしょう?国内の需要を喚起するという名目で、公共事業を行い、それを反省したかと思ったら今度は国民へのバラマキ。首をかしげるだけでは足らず、首の骨が折れてしまいそうです。
仮に一人あたり200万円の専門教育費用(大学院など)を負担したとして、10万人の優秀かつ意欲の高い学生にそれを奨学金という形で支給したとしても、年間に2000億円の予算です。八ツ場ダムの当初建設予算は2000億円、結局膨らんで4600億円。無駄なダムを一個作るのをやめるだけで、2年間で専門大学院の学位をもった意欲の高い学生を10万人作り出すことができる。前者(公共投資やバラマキ)と後者(教育投資)とで、国家の将来に与える影響がどれほど違うことでしょうか?
「コンクリートから人へ」を提唱する鳩山政権ですが、ぜひその具体的な戦略を描いて実行してもらいたいと思います。ホステスと路上でキスをしている暇があるのなら。
Kazuteru Kodera