ITは鉄道や電力のようなインフラになるのか

大学院の科目で「経営情報システム」というのがあります。組織の経営におけるITの役割とその戦略的活用方法を学ぶという趣旨。そこでこんなテキストが取り上げられており、試験前日の今日になって読みました。これがけっこう興味深い内容。

ITにお金を使うのは、もうおやめなさい ハーバード・ビジネススクール・プレス (Harvard business school press)

ITにお金を使うのは、もうおやめなさい ハーバード・ビジネススクール・プレス (Harvard business school press)

Does IT Matter? というのが原題です。日本語に直訳すると「それって意味あるの?」といった感じでしょうか。IT(イット)とIT(アイティー)をかけて、情報技術(IT)の重要性に疑問を投げかける面白いタイトルの本です。
ITはもはや鉄道や電力網と同じようにインフラ技術となっており、それにいかにお金を突っ込んで(投資して)も企業としての競争力強化や差別化にはつながらない、というのが著者の主張。どんなに頑張ってITを強化したって大した意味はないのだから、企業のIT戦略をつかさどるCIOは、ITによる差別化や競争優位の確立を考えるのではなく、まずそのリスクを抑えることにフォーカスすべきだ、という論理展開になっています。
その背景にあるのが、ITは「コモディティ化」しているという議論。つまり、水道や電力や鉄道などと同じように、ITは企業にとって「誰でもが安価に手に入れられる存在」になっているという考え方です。誰でも入手できるので、それを手に入れたからといって競合との差別化にはならないし、有利な立場に立つこともできない、と。
もちろん、新しい技術を先行導入すれば一時的な優位にはつながる。けれど、それはあくまでも「一時的」なもの。すぐにそのIT技術はコピーされ、より安価に、かつ安定した形で世の中に普及していくというのがITの宿命だと著者は言っています。なぜなら、近年のITはハードもソフトも複雑化・高度化しており、ベンダー(メーカー)側は少しでも多くの顧客にそれを使ってもらわないと初期投資をペイすることができない。ITはそれ自体、共有化(多くの企業で使われること)を望む存在なのだ、と。
少し前に出された本ですから、現在のようなASPSaaSクラウドといった新しいサービスの出現を前提に書かれたものではないと思います。しかし、上記のような傾向は近年のクラウド化などによってより強まっていると見ることもできます。かつては自前で巨額の投資を行って構築するものであったシステムが、月額利用料○○円といった形で安価に、しかもハードウェア(端末など)を購入することなくブラウザだけで利用できてしまうクラウド。企業の規模や資金力の差によるIT活用度の差異というのは、日に日に縮まっているというのが実感です。これから先、さらにITはWebを中心としてコモディティ化の流れを突っ走っていくことになるのでしょうか。
最近注目を集めているUSTREAMを活用すると、個人があたかもテレビ局であるかのように、全世界に中継を流すことができてしまいます。テレビ局が莫大な機材投資をして作ってきた「ブロードキャスト」という牙城を、個人がPC一台あるいはiPhone一台であっさりと代替してしまうことができる。まさに「コモディティ化の時代」ですね。
Kazuteru Kodera