消費性の借金、道具としての借金

田舎から出てきた東大生があれよあれよという間に騙されて、商品先物取引で5,000万円という借金を作ってしまう。金利だけでも600万円(年利12%)が発生するというまさに「借金の底なし沼」にいったん落ちた著者が、必死で勉強した「理詰めでお金を作る方法」で事業を起こし、ついに借金を返済する。本の中では、その一連の経緯が綴られながら、著者の考える世の中の仕組みやお金というものへの考え方が示されていきます。

借金の底なし沼で知ったお金の味 25歳フリーター、借金1億2千万円、利息24%からの生還記

借金の底なし沼で知ったお金の味 25歳フリーター、借金1億2千万円、利息24%からの生還記

著者にとっての最大の気づきは、ついにヤクザの取立てが故郷の両親の元にまで及び「いよいよこれまで」となった時に考えた「消費性の借金と、お金を作り出す道具としての借金」という、お金の性質を二分する概念であったように思います。
彼が当時背負っていた5,000万円の借金は湯水のように投機に使われてしまった「消費性の借金」。一方、その借金を返すために事業を起こす、そのための元手となる借金は、「お金を作る道具としての借金」。借金にまみれて意気阻喪していた著者は、この考えに思い至ったことで新たな光を見出し、追加の借金をして自分の運命を切り開いていく決意をしています。「毒を以て毒を制す」と本書の中では表現されている内容です。
著者の壮絶な経験を通じて「お金」というものの持つ魔性の力といったものの実像を垣間見ることのできる、そんな本です。
ただ、著者が多額の借金からの生還を果たしたからといって、誰しもが容易にこのようなことができると思ってはいけません(当たり前ですよね)。著者は行政書士の業務で元手を作り、そこから不動産投資で成功していきますが、そうした成功の背景にあったは彼が独自に考案したというデータベースマーケティングによる集客システムでした。お客を集めることにかけては絶対の自信を持っていると本人が言うとおり、彼の成功にはそれを支えるビジネス・モデルがあったのです。また、そうした仕組みを考案するために、さまざまな勉強を独学で積み重ねてもいたようです。
優れた事業モデルによって元手の資金を借入金利以上の利回りで運用できる、つまり金利以上の収益性をあげられるビジネスを作れるのであれば、借入金を活用して高いレバレッジを効かせて事業を行う方が得策です。レバレッジを高めれば財務的な安定性は損なわれますが、ビジネス・モデルそのもののリスク大きくは変動しませんから、自信があるのであればレバレッジをかけて事業を行ったほうが効率がいい、ということになります。
著者の場合、自身の生み出した事業の仕組みに信頼を置いているがゆえに、「お金を生み出す道具としての借金」を肯定的に考えることができるのです。一方、「無借金経営」が手放しで賞賛される日本では、まだレバレッジといった考え方自体があまり受け入れられてはいないのかもしれません。普通の人から見たときに、著者の思考が少し「飛んでいる」と思えてしまうのも、そうした背景があるのかもしれませんね。