街の集合体としての「東京」

一月に一回くらい覗いている最寄り駅前の小さな本屋。広さは、どうでしょう、10坪といったところでしょうか。雑誌と文庫・コミックが大半の面積を占める、よくある小さな本屋です。ところが、1棚だけ確保されたビジネス書コーナーに時折キラリと光る品揃えを感じることがあります。
紀伊国屋丸善のように「何でも置いている」本屋とは違い、欲しい本を買いに行くことはできません。だって、そうした本を見つけるのは非常に困難なのですから。店主のフィルターがかかった限られた品揃え、その中から自分の琴線に触れる1冊を選び取る。そこに惹かれることがあるのです。
今回はこんな本を見つけました。

東京のどこに住むのが幸せか (セオリーブックス)

東京のどこに住むのが幸せか (セオリーブックス)

目次の最初の章がいきなり「武家屋敷」の話。なんでも、東京において安定的に不動産の価値が上昇していくエリアというのは、江戸の昔に武家屋敷が立ち並んでいたエリアが多いというのです。ユニークな視点だと思いませんか?著者の一貫した主張は、東京は「街」の集合として成り立っており、不動産の購入にあたっては対象となる「街」がどのような歴史をもって成り立ち、今後長い期間にわたってどんな発展をしていくのかを見通す視野が必要だ、ということでした。
この本の興味深いところは、上記のような歴史的視野と収益還元方を柱とした統計的・会計的手法を組み合わせて分析している点。単に「歴史を知れ」というだけでは何の説得力もないところですが、そこに実際の賃料相場動向データを統計的に分析したり収益還元方を使って現在価値を算出したりといった作業が加わることでとてもわかりやすく、かつ科学的に「東京に住むということ」を捉えなおしています。
この本の観点から東京のさまざまな街を眺めてみると、これまでとは違った「住む喜び」が見いだせそうですね。実際に僕もマンション選びをしてみたくなりました。