Change the world

原書のタイトルは「Leaving Microsoft to change the world」。直訳すると「世界を変えるためにマイクロソフトを去る」。MBAを取り、銀行を経てマイクロソフトに転職。アジア地域のマーケティング担当重役にまで出世した後、突如ネパールの子供たちに本を届けるNPOを立ち上げるために退職してしまった著者による1冊です。

マイクロソフトでは出会えなかった天職 僕はこうして社会起業家になった

マイクロソフトでは出会えなかった天職 僕はこうして社会起業家になった

出張経費は使いたい放題、世界を股にかけて飛び回り、充分すぎるほどの報酬を得ていたであろう人物が、ある日「ネパールの子供に本を届ける」仕事に転じ「Room to read」というNPOを立ち上げる。きっかけとなったのは、休暇で旅をしたネパールで出会った「本が貴重で手に入らない」という光景だったそうです。学校教育はおろか1冊の本すらも手にすることのできない子供たちが数多くおり、中には「貴重な本が傷む」という理由で本棚に鍵をかけてしまった学校もある、という現実。
著者は、自分の成長にとって本がかけがえのない存在であったことを思い、そんな素晴らしい本を手にする機会を得ることができない子供たちがいるという現実に大きく心を動かされます。そして、すぐに行動を始める。まずは自宅に眠っていた大量の本をネパールに送り、やがては自らの能力と経験の全てをその行動に投じようと決心する。

思えば、僕自身にとっても本はかけがえのない存在。そして幸運なことに、子供時代、本に使うお金であれば両親は喜んで与えてくれました。「本は人間の肥やしになるから」という言葉を今でもはっきりと覚えています。だから、僕は本を買うときに値段を見る習慣がない。もちろん今では自分のお金で本を買うようにはなったけれど、やっぱり値段は見ていない。本から得られる恵みを思えば、本の価格は安すぎるくらいに安いと考えているから。
ところが、本が与えてくれる人生の豊穣を、ただ貧しい場所に生まれたからという理由で味わうことができないままに育っていく子供たちが世界にはたくさんいる。食べるのにも困っている人がたくさんいるのだから、本が手に入らない人だってたくさんいる。それはわかっているけれど、本を愛するがゆえに「本が読めない子供たち」の光景は僕の心を締め付けました。
「物質的な富そのものに価値はない。富は、それを使って何をするかで価値が決まる」。この言葉を、これほどに真摯に聞いたのは初めてかもしれません。彼のような行動力も、彼のようなビジネスの才能・経験も僕にはないけれど、何かできないか、という思いだけはしっかりと芽吹かせることができました。
Change the worldなんて大げさな言葉だけれど、自分の行動が世界を変えると思えれば、きっと人間は大きな力を発揮できるはず。企業であれNPOであれ何であれ、世界を変える気概をもって取り組む場所に、僕もいつかは立ちたいと思います。