中原の虹

浅田次郎の小説「中原の虹」、最終巻である4巻が刊行されて、遂に完結となりました。前々作「蒼穹の昴」、前作「珍妃の井戸」と連なる中国・清朝末期を描いた一大歴史絵巻に、いったん終止符が打たれた形です。

中原の虹 第四巻

中原の虹 第四巻

珍妃の井戸 (講談社文庫)

珍妃の井戸 (講談社文庫)

蒼穹の昴(1) (講談社文庫)

蒼穹の昴(1) (講談社文庫)

「中原の虹」では、清朝末期に馬賊を率い中国東北部に一大勢力を築き上げた張作霖を中心に物語は展開していきます。浅田次郎独特の人物描写は、史実をベースに書かれたとは思えないほどの躍動感を全編に与えていて、幾度となくため息が出るような思いに囚われる力作。
歴史という巨大かつ複雑なストーリーがいかに多面性に満ちたものであり、そこに込められた当時の人々の「生の躍動」を後世の我々が捉えることはとても難しい。優れた歴史小説を読むたびに感じることではありますが、今回もそんな思いを強く抱きました。
どんなに歴史的事実を克明に記憶し語ることができようと、その日その時に生き、志や野心や欲望に突き動かされて歴史を刻んだ人間の姿を想像し感じることができなければ、歴史を知り学ぶ意味などないでしょう。今日を生きる私たちの糧となり教訓となり支えとなるのは、単なる事実としての歴史などではなく、そこに生きた人々の思いであり経験なのですから。
そういう意味では、学校で与えられる教科書などよりもむしろ、(多少の虚構を含んでいるとはいえ)優れた歴史小説を読むことの方が、そんな想像力と感じる心の醸成につながるのではないかと思います。