震えるほどの景観

前日の夕暮れ、沈み行く太陽の光を浴びてピンク色に輝くマントクックを見たことで、すっかり期待に胸が膨らんで目覚めたマウントクック村滞在最終日。前日のトレッキングで少し足は疲れていたけれど、窓外を眺めた瞬間に思わず「やばいよ、これ・・・」と呟いてしまったほどの快晴でした。
午後2時のバス出発に間に合うよう、早々に朝食を済ませて出発。

前日降り積もっていた雪もすっかり溶けて、ルートは一目瞭然。そして、遥か彼方前方には、昨日はその姿を一瞬しか捉えることのできなかったマウントクックが、こちらを眺めるかのように悠然と佇んでいました。

一つ目の氷河湖、ミューラー湖に着く少し手前に、石造りの慰霊塔があります。石を組み上げて作られた四角錐の棟が、青空に向かって突き上がる様はどこか荘厳。マウントクック山系の山々で命を落とした登山者達を慰霊するために建てられたもので、犠牲者の氏名と遭難された場所が刻まれたプレートがいくつも付けられていました。

真っ白な雪をまとった山の下方に写っているのが第一の氷河湖・ミューラー湖。ミューラー氷河から流れ込んだ水がたまってできた湖です。先日ご紹介したテカポ湖とは違い、灰色の湖面が少し冷たい印象を与えるけれど、青空の下ではそれもまたよし。ここを超えると、二つのつり橋を渡り(けっこう距離はある)、目指すフッカー氷河が近づいてきます。

朝早い時間ということもあり、好天とはいえかなり寒い。道の両側を時おり覆う林の木々も、すっかり霜をかぶっていました。陽光に照らされて輝いている様子がとても涼やかで、自分の口から吐く白い息ともあいまって冬の凛とした雰囲気を感じる瞬間です。

フッカーヴァレートラックの終点、フッカー氷河湖。そしてその先に大きく映えるマウントクックの姿。ここまで誰にもすれ違わず、誰にも追い抜かれずに到着した僕たちは、そう、今日この素晴らしい空の下、最初にこの絶景を目にする栄誉を授かったのでした。誰もいない氷河湖を前に、山を歩いて火照った体がいっそう熱くなります。
周囲を包む冷たい空気、目の前の絶景、誰もいない、音のない静寂。本当に体が震えるような空間でした。

持って行った三脚を使って記念撮影。2日間の荒天を耐えて出会うことのできたこの景観に、感謝。
photo : OLYMPUS E-410 with ZUIKO DIGITAL 14-42mm F/3.5+5.6