威風堂々 〜鹿児島の食〜

もともとの旅の目的が、美味しい食事と旨い焼酎、それからちょっと温泉気分、というものだっただけに、食への思いは当初から並々ならぬものがありました。「この際、金に糸目はつけねぇ!」ってな具合に、一日目の夜は正統派の鹿児島郷土料理に挑みかかります。

圧倒されてしまったのがこの黒豚しゃぶしゃぶ。カライモ(=サツマイモ)で育てたというこだわりの豚肉は、柔らかすぎず硬すぎず、抜きん出たコクを口の中で染み出させます。特性のポン酢に紅葉おろし・ねぎ・おろしニンニクを加えて作ったタレをつけてグイっと噛み締めた瞬間、言葉が途切れました。うまい、うますぎる・・・。

こちらは嬉しい誤算、さつま揚げ。正直なところ、こいつには期待をしていませんでした。「おでんの具」程度の認識でいたわけです。「冷めてもおいしいですけど、温かいうちに召し上がるのをお勧めしますよ」という店員さんの言葉に従ってすぐに箸をつけると、そこには期待を大きく裏切る驚きの香ばしさと風味がありました。表面の薄皮はパリっとしていて、中はふっくら。わさび醤油で食べるさつま揚げは、「おでんの具」とは別世界の存在でした。
このほかにも、キビナゴ・カツオに代表される海の幸もたらふく味わって、薩摩の夜は食満足の中に暮れていきました。
続いては、2日目の昼食。

知覧の町にあるその名も「隼ラーメン」。

あっさりとしてどこまでも飲めてしまいそうなとんこつ醤油のスープがたまりません。東京にもたくさんの九州・鹿児島ラーメンのお店が出店していますが、やはり現地で食べる一杯は一味も二味も違います。お店に響く鹿児島弁も心地良く、またしても満腹の極楽へと誘われていくのでありました。
旅全体を振り返ってみても、全ての食事が幸せに満ちたものだったことが記憶に強く刻まれています。同じ食材・同じ味付けを東京で食したとしても、恐らく同じ感慨を得ることはできない、そんな確信があるのも、今回の旅。その土地でしか感じられない質感が人間の五感を刺激して、六つ目の感性を呼び覚ますのかもしれません。そこで味わえるのはただの食事ではなく、鹿児島という土地の味。鹿児島という空気の味なのでしょう。
photo : Ricoh GR Digital