ミュンヘン 〜残酷なリアリティ〜

[rakuten:book:11837447:detail]DVDで観ました。パッケージの裏側に記載されたストーリーを読む限り、イスラエル情報機関モサドが画策したパレスチナ解放組織の幹部暗殺にまつわるサスペンス・アクションといった印象。007を彷彿とさせる情報機関の暗闘・・・といったものを想像していました。
パッケージ記載のストーリーには嘘はありません。モサドは確かに登場するし、世界各国を飛び回って暗殺ミッションを遂行する主人公も登場する。ただ、007と違う点がひとつ。この映画が実話を元にして作られている、ということ。
ミュンヘンオリンピックに派遣した選手団を拉致・殺害されたイスラエルが、その報復の目的で実行犯をひそかに葬ろうと画策。情報部員に暗殺プランを実行させる。ところが、コトは映画のようにはうまく運びません。主人公は007のようにクールに人は殺せず、ターゲットを前に銃をまともに扱うこともままならない。用意した爆弾はうまく作動しないし、次から次への暗殺実行に疲れたチームのメンバーには精神に異常をきたす者まで現れてしまう。最後には主人公もまた大きな精神的ダメージを受け、組織内で「英雄」と賞賛されながらも、報復への恐怖から病んでいってしまう。
この映画に更なるリアリティを付加しているのが、イスラエルVSパレスチナという対立の構図。「そんなにオリーブの木が恋しいのか?あそこには何もない。ただの荒地だ」とイスラエルへの攻撃の無益を説く主人公に対して、「例え子や孫の代、100年先までかかっても、自分たちの土地と祖国を取り戻す」と決意を語るパレスチナ解放活動家。
子や孫の代、100年先までかかっても。重い言葉です。それほどまでの決意を人間にさせてしまう力を持つ「祖国」という概念。それは、システムとしての「国家」などという平板なものではなく、人間のメンタリティに深く食い込み、懐かしさや感傷とともに語られる存在なのでしょう。以前にここで書いた「サウダーデ」に近い存在なのかもしれません。