我慢強い人に支えられた組織は成長しない

タイで組織運営をしていく中で驚くこと、学ぶことはいくつもあるのですが、その一つに「我慢強い人に支えられた組織を作ってはいけない」という気づきがありました。組織としての不具合を社員が我慢することで運営されている組織は、中長期的に成長していくことは難しいのではないか、ということです。

なぜこんなことを気づいたのかというと、タイ人スタッフのおかげです。タイ人と日本人では「仕事」というものに対する価値づけ・優先順位がずいぶんと違っていて、彼らの人生における仕事の重要度というのは4位とか5位とか、そんなランキングになっているような気がします(もちろん個人差はありますが…)。そのため、仕事におけるストレス耐性はそれほど高くない。無理をして頑張ったり、嫌なこと辛いことを我慢してまで職場における評価を維持したいとか、上司に評価されたいとか、そういう感覚は薄いのです。もちろんそれは、怠けているとかサボっているという意味ではありません。各自の持っている「ここまで」というラインがあって、それを超えたところまで「頑張った」りはしないということです。

 
その結果どうなるかというと、組織運営のまずさからくる過剰な負荷とか、業務フロー上の非効率とか、そういったものに対して明確な「NO」が現場から発信されてきます。「このタスクが期限通りに終わりそうにありません。仕事の全体量が多すぎます。」とか、「サプライヤーへの発注が遅くなるのは、仕事の進め方のルールに問題があるからです。」といった具合です。
僕は当初、こうした「NO」の発信に少し驚きましたが、同時に感謝の気持ちを持ちました。スタッフ一人ひとりの仕事量の状況や、社内組織内・組織間の業務プロセスの機能状況など、現場レベルで詳細にモニタリングして機能不全になっていないかチェックするのはなかなか難しいもの。それを当事者であるスタッフ陣からの発信という形で問題提起をしてもらえれば、運営者としての行動はシンプルです。情報を集めて事実を確認し、問題が本当にあるのなら解決策を実行する。提起された問題が解決されれば、スタッフはまたニコニコと楽しそうに仕事をしてくれます。
そのことに気づいてから、スタッフが深刻そうな顔をして「I have an issue for you to consider....(ちょっと考えていただきたいことがあるのですが…」と言ってやってくるのをポジティブな気持ちで迎えることができるようになりました。それがどんなに頭の痛い問題であっても、問題の存在に気づかないままでいることの恐ろしさと比べたら、何ということはありません。
 
一方、日本の組織に多くみられる(当社本社も含めて)のは、「おかしいとみんな感じているけど、今まで通りやっている」という状況でしょう。特定の誰かが我慢して残業したり、非効率なことをわかっていながら黙々と業務をこなしていたり。理解に苦しむ状況がそこらじゅうで発生しています。根底にあるのは、頑張ること・我慢することを過剰に推奨し評価する風土だと思います。恵まれない環境(非効率な業務システムや組織リソースの配分不全など)に耐えて頑張ることが美しい、という、苦労礼賛とでもいう風習が、日本の組織には蔓延しているんですね。結果としての長時間労働が問題になったりしていますが、どれだけ「残業禁止!」と言ってみたところで、この苦労礼賛の文化を払しょくしないことには、状況は変わらないでしょう。
社員の我慢と頑張りに支えられた組織の弱さは、事業を成長・変革しようとするフェーズで如実に出てくるものです。ただでさえ高い負荷の下で仕事をしているのですから、成長・変革に伴う想定外のタフな仕事が発生したら、たちまち脱落者が出てくるか、そもそもの成長・変革の試みそのものが止まってしまいます。
 
日本とタイの組織を比較して、「日本人は頑張るからGood、タイ人は頑張らないからBad」と評価する向きも多いですが、僕はあえて、タイ人の「頑張らない性質」をうまく組織デザインや業務プロセスのデザインに生かすことを考えたいと思っています。